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第6回 “日本人(にほんじん)の心(こころ)「白(しろ)」と「黒(くろ)」” 
荒川豊蔵(あらかわとよぞう)作「志野茶碗(しのちゃわん)」 伝(でん) 宮本武蔵(みやもとむさし) 筆「破墨山水画(はぼくさんすいが)」


清らかな白や深い墨色(すみいろ)は、日本人が心中に持つ美意識である。古くから墨は五彩(ごさい)の色とか、白は精神の色と呼ばれてきた。今回はそのような日本人の心の美を象徴する二つの作品を紹介する。
美濃(みの)の赤土の上に白い釉(うわぐすり)をかけた「志野焼(しのやき)」は、利休(りきゅう)の侘茶(わびちゃ)の世界で最も日本的な茶碗といわれる。淡雪(あわゆき)のような白い肌に柔らかく火色(ひいろ)が赤く映(は)える美しさに、文豪川端康成(かわばたやすなり)は“艶(つや)やかな女性の夢”と褒(ほ)め称(たた)えたほどだ。この美しい茶碗が作られた桃山(ももやま)時代以来ナゾのように消え、400年を経て一人の陶工(とうこう)によって再び姿を現したのである。再現したのはかつて志野焼の地、多治見(たじみ)に生まれた荒川豊蔵(1894−1985)。青年時代窯跡(かまあと)で発見した米粒大の土をヒントに生涯窯跡に住みつき、夢と苦労のあげく遂に幻の志野焼の再現に成功し、わが国陶芸の歴史に大きな発見となった。荒川はその優れた作品から文化勲章を与えられた。
黒い墨を画面一杯に滲(にじ)ませた技法を「破墨」というが、剣豪宮本武蔵(1584−1645)の作といわれるこの「破墨山水画」は、屹立(きつりつ)する向こうの山々と雲か水かで隔たるこちらの人の暮らしが描かれている。ただ墨の強弱の画面から武蔵の気迫が迫(せま)って来そうだ。剣を求めて諸国を歩いて負けを知らず、晩年は熊本藩に召(め)され剣と人の道を有名な「五輪書(ごりんのしょ)」にまとめた武蔵は、優れた画人でもあった。「山水」は武蔵の胸中の風景画である。この絵に美術史家で高名な長尾雨山(ながおうざん)は「心も目も醒(さ)まされた」と箱書きし、また大正9年(1920)徳富蘇峰(とくとみそほう)が開催した「武蔵遺墨展(むさしいぼくてん)」にも出品されている。

解説 晴明会館顧問・美術評論家 亀田正雄

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