HOME > 展示会ご案内 > 「精華の名品展」 解説目次 > 「精華の名品展」解説
解説履歴

第13回 “むかし話(ばなし)”
作者不詳 「絵巻本(えまきほん) 伊曽保物語(いそっぷものがたり)」
葛飾北斎(かつしかほくさい) 「桃太郎(ももたろう)の鬼征伐(おにせいばつ)」


子供の頃に懐かしい「イソップ物語」が日本に伝わったのは約400年前、キリスト教と共に伝来した南蛮文化(なんばんぶんか)からであった。この物語は九州、天草(あまくさ)で初めて印刷され、仮名文字(かなもじ)と鮮やかな絵で身近な動物、人物などのお伽話(とぎばなし)で、多くの日本人に教訓的なお話本となり愛されたのである。
晴明会館では今回「絵巻本 伊曽保物語」を展示したが、これは随分早くから我が国で普及していた「イソップ物語」の極めて貴重なもので、当館の誇りとするコレクションである。全六巻、長さは16bに及び、103のそれぞれの物語が絵と書の絵詞(えことば)で綴(つづ)られている。写真の一例は「蛙(かえる)と牛(うし)のお話(はなし)」で、蛙が牛の膨(ふく)れているお腹(なか)を見て自分も同じように膨らませた途端、パチンとお腹が弾(はじ)けてしまった、という話で力のない者の高望みを戒(いまし)めた寓話(ぐうわ)である。こうした物語には当時の日本の厳しいキリシタン禁制を潜(くぐ)り抜けるため、建物や人物をわざと中国風に表し日本にない物語に見せたり、絵巻本のライオンが唐獅子(からじし)に、ロバが馬に混同されているのは当時まだ日本人が、これらの動物を見ることがなかったとも思われ興味深い。「イソップ物語」は2,500年もの大昔、ギリシャのイソップという人が各地を回って語った話をまとめ、世界中に広がった。
これに対し写真の「桃太郎の鬼征伐」はいつ頃から誰が作ったか分からぬが、“日本の昔話”として日本人が親から子へ、孫へと語り継がれて来た。言うなれば民族、民衆(農民)の心である。絵は江戸の大版画家北斎が、鬼征伐に行った桃太郎が鬼をやっつけているところで、恐らく端午(たんご)の節句(せっく)に頼まれて描いた絵を表具(ひょうぐ)して「のぼり旗(ばた)」にした、これも珍しい作品である。この絵は鬼ヶ島(おにがしま)に征伐に同行する犬(いぬ)、猿(さる)、雉(きじ)を描いたもう一点と一対になっている。いくら力があっても、悪いヤツ(鬼)は必ず負けることを教えた話はイソップと似ている。

解説 晴明会館顧問・美術評論家 亀田正雄

ページトップへ

  当サイトに掲載されている全ての画像・写真の著作権は新健康協会・晴明会館が所有しております。
当サイトに掲載されている情報を許可なく複製・販売・貸与および出版などの行為を固く禁じます。
Copyright (c) 1999-2012 Product by Shinkenko-kyokai org. All rights reserved.