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第14回 “うるしの美(び) ―むかしといま―”
毛利家婚礼調度品(もうりけこんれいちょうどひん)
佐治賢使(さじただし)の大画面(だいがめん) 「余灯(よとう)」


英語の辞書を引くと「JAPAN」(日本)と共に「漆」(うるし)が出てくる。それほど欧米で日本は「漆(うるし)の国」と言われてきた。漆の樹の樹液(じゅえき)を採(と)り何回も塗り重ねて作られる漆の手技(てわざ)は、日本の伝統工芸として古く奈良の法隆寺(ほうりゅうじ)や正倉院(しょうそういん)(もっと古く5,500年前、縄文期(じょうもんき)という説もある)から現代まで私達の身の回りに一杯溢(あふ)れている。特に近世から江戸時代は装飾も最高に輝き、多くの漆芸品(しつげいひん)が海外に貿易された。「うるし」が「ジャパン」と呼ばれたのはそのためである。
その江戸時代の漆作品で有名なのが、大名の姫達が競い合った「婚礼調度品」である。今回展示された「毛利家婚礼調度品」は西国(さいごく)の大大名(だいだいみょう)として知られる長州(ちょうしゅう)(山口県)藩主・毛利家のそれで、戦前文部省から重要美術品認定の「写(うつ)し」があるほど、素晴らしい遺品である。調度品は全部で41箱、312点でそれぞれに毛利家の家紋「沢瀉(おもだか)」の花が蒔絵(まきえ)で意匠(デザイン)され、大きく分類すると「飾棚(かざりだな)」、「化粧道具(けしょうどうぐ)」、「香道具(こうどうぐ)」の三種類で、女性だけにお化粧道具が圧倒的に多い。他に化粧品と香と書物を置く「三つ棚(みつだな)」、源氏絵(げんじえ)の包(つつみ)に「香」を入れた「沈箱(じんばこ)」や鏡台(きょうだい)、手鏡(てかがみ)、お歯黒(はぐろ)や眉作(まゆつく)りの刷毛櫛(はけぐし)など。そんな中で夫婦一対の「お枕(まくら)」には、いい眠りのためにと一方には悪い夢を食べてしまう獏(ばく)(中国空想の動物)、片方には困った時も難を福に転じるよう南天(なんてん)の花が描かれているのも興味深い。
もう一つのうるしの大画面は、伝統の工芸を現代の鑑賞絵画にしたパイオニア、佐治賢使の作品「余灯」である。深いブルーと黒の色漆(いろうるし)で明けやらぬ川畔(かはん)の風景を描いたもので、水面に映る弦月(げんげつ)の何と幻想的なことか。洋画とも日本画ともいえぬ艶(つや)やかな漆の素材の美が、この作品を出品した昭和53年(1978)の日展(にってん)で大きな話題となった。佐治は東京美術学校(現東京芸大)時代、日本の漆芸界の巨匠、松田権六(まつだごんろく)に学び、戦後は漆芸に新しい現代性を求めた多くの若い作家を育てた。平成7年文化勲章を受章。住んでいた市川市(いちかわし)では名誉市民とし文化会館に力作の緞帳(どんちょう)が飾られていた。

解説 晴明会館顧問・美術評論家 亀田正雄

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