吉川英治(よしかわえいじ)の小説を含めた500種を越す書籍、映画やテレビに映像化された数多くの武蔵ものは枚挙(まいきょ)にいとまがありません。
それほど生誕(せいたん)から没するまでの人生中、大きなものでは「般若坂(はんにゃざか)の決闘(けっとう)」「一乗寺(いちじょうじ)の決闘」「巌流島(がんりゅうじま)の決闘」を加え、延べ60回以上の勝負(しょうぶ)をして負け知らずであったという天下無双(てんかむそう)の剣客(けんかく)でした。晩年は肥後熊本(ひごくまもと)の藩主細川忠利(ほそかわただとし)に招かれ、客として熊本に住み、そこであの有名な兵法を説いた「五輪書(ごりんのしょ)」を書き残したのでした。
剣の達人として武(ぶ)の道に優れていたその動的な武蔵ではあったのですが、精神集中力と心の癒しのためか書、絵画、彫刻に打ち込む静的芸術方面にも優れた才能を示しました。
この山水図全体の淡(あわ)い墨面(すみめん)に加わる濃(こ)い墨線(すみせん)・滲(にじ)みが、画面全景の静寂さの中に、力強さ鋭(するど)さの内在を感じ取られないでしょうか。