令和7年5月13日(火)まで「山の景」展を開催致しております。
(※年末年始、令和6年12月27日〜令和7年1月4日は休館させて頂きます)
「山の景」展
日本列島は豊かな山林の緑に恵まれています。日々の暮らしの糧や住まい、燃料をもたらす山は、生活に身近な存在であると同時に、畏怖するべき信仰の対象でもあります。やきものの窯場の多くは山中に築かれ、絵画においては長らくその神秘性をこそ描き出そうとされてきました。
中国で漢時代に興ったとされる山水画は広く東アジアに伝わり、日本では主に宋・元・明時代のものを範とした水墨画が、室町時代に全盛期を迎えます。山水画は名前の通り、山岳や渓谷が描かれますが、それはもともと神仙の住処を表すもののため、現実にある景色を再現する意識は高くありませんでした。特に日本では、その観念と中国の風景を描いた図様を学んで取り入れていることもあり、山や樹木、岩などの形を再構成したものが多いのです。
さらに平安時代に遡ると、和歌の歌枕として詠まれた名所を描いた名所絵が成立していたと言われていますが、そこに描かれている光景もまた景勝地を写したものというよりむしろ和歌や物語の場面を連想させるためのもので、やまと絵はそうした目に見えない文学的な要素を根本にもって展開してきたといえます。
しかしそんな日本においても富士山は特別です。古来から霊山として拝され、和歌や物語にも登場し、実際に備えている特徴をもった姿で描かれてきました。近代以降は日本の象徴とされるほどの名山となり、近世から取り入れられてきた西洋的な表現方法の普及によって、より写実的な富士山が描かれるようになりますが、そこでも神々しさを表すことは忘れられてはいません。
本展では、このように日本の美術にとって重要な存在である「山」をテーマに構成します。自然環境についての意識が高まる現代を生きる私たちにとっても、山の大切さは増すばかりです。富士山をはじめとしたさまざまな山を描いた絵画や、山で生み出されたやきもの、自然の緑を想像させる作品などを通して、山と私たちとの関係を振り返る機会になると幸いです。
解説 松田愛子
展示作品紹介:歌川広重(1797〜1858)「近江八景」
「雲はらふ 嵐につれて 百船も 千船も浪の 粟津に寄する」
ある晴れた日の吹き下ろす山風に、琵琶湖岸東海道沿いの美しい松並木の枝葉がざわめき、その心地よい音色(ねいろ)が響いてきます。白波たつ湖面に粟津ヶ原近くをゆっくりと帆走している船の優雅な情景に心を打たれます。