
令和8年6月9日(火)〜 12月5日(土)「祈りをこめて」前期展を開催致しております。
(※ 令和8年6月14日〜令和8年6月16日は臨時休館させて頂きます)
「祈りをこめて」展
古今東西、さまざまな形で人は祈りを捧げてきました。地域や文化、信仰によってその対象はそれぞれ違いますが、日々の暮らしの安寧を願う時、大切な誰かを想う時、心を自分の外側に向けて言葉やイメージとともに強く望むという営みは普遍的なものだといえるでしょう。洞窟壁画や遺跡、埴輪のような出土品の例を引くまでもなく、人類の歴史の始まりからそうした営みに寄り添ってきたのが美術や工芸、歌や舞であり、そのかたちは祈りそのものです。
仏教が広まった地域では、仏の姿や物語を描いた仏画、仏像が残され、儀礼の中心に置かれてきましたし、近代以降の芸術家たちもその伝統に連なるモチーフを新しい感性で表現しました。霊峰や由緒ある名所の絵はもちろん、一見身近な風物をそのまま描いたような風景画や花鳥画にさえも、私たちを生かす自然への感謝の念がうかがえます。工芸作品をつくるためのたくさんの手しごとの過程一つひとつには自然素材との対話があり、完成に至るまでの道のりはどこか祈願の姿に重なるところがあります。今回はそうした「祈り」を追体験できるような作品をご紹介する展覧会です。
また本展では「世界の信仰や思想はすべてヒマラヤから発する」という万教帰一の考え方と、人類の幸福、世界の平和を理想に抱いていた杉本哲郎の作品も展示いたします。杉本は日本画の研究に力を注ぎ、宗教画家の集大成として、1969年から1981年までの12年間をかけて「世界十大宗教壁画」の制作に取り組みました。杉本が70歳から82歳の時です。ヒマラヤの連峰を「神々の座」として中心に据え、仏教、ヒンズー教、ジャイナ教、ゾロアスター教、ユダヤ教、キリスト教、マニ教、イスラム教、道教、古神道の絵画をそれぞれ2、3点ずつ計25点の大作が生まれました。これらは実際に現地に赴き、各宗教の教理や民族の歴史、談話、習俗などを自分の目で見て、感じたことをもとに描かれたものです。
祈りをこめた絵画、工芸作品と時間をかけて向き合うことで、心の動きを見つめ直すと同時に、遠く広い世界のことにも思いを馳せる機会になると幸いです。
解説 松田愛子